記憶を重ねる、静かな主役

今日も朝の光が、静かに円卓を照らしている。
天板はうっすら白く、まだ誰にも触れられていないような静けさ。
オークの脚は、昨日のあたたかさをまだ少しだけ残している。

その静けさを、最初に破るのは、小さな足音だ。
「ママ〜、きょうはね、ライオン描くの」
クレヨンの箱がガラガラと音を立てて開かれ、
色とりどりの線が、大理石の上に広がっていく。

丸い天板は、角がない。
だから、手も、道具も、言葉も自由になる。

描いているうちに、紙の外まではみ出してしまう。
のりを使ったら、ちょっとベタベタになって、
気づけばテーブルのすみに、うっすら色が残っている。

けれど、不思議と腹は立たない。
このテーブルが、すべてを受け止めてくれている気がするから。

硬くて冷たいと思っていた大理石は、
実はとても寛容だった。

おやつを囲む午後も、
何も話さず座る夜も、
このテーブルの上にはいつも、
“今”が置かれている。

そして、子どもの手から生まれた絵や工作も、
その“今”の一部として、静かにこのまんなかに刻まれていく。

何年か経って、その跡が薄れても。
この円卓にはきっと、あのときの息づかいが残っている。