誕生日の夜

夕暮れのリビングに差し込む光が、ゆっくりと傾いていく。
テーブルの上には、焼きたてのパンと湯気を立てるスープ、そして小さな花瓶に挿した季節の花。
今日は子どもの七歳の誕生日。大人も子どもも一緒に、190cmの大きな天板を囲んでいる。

このテーブルを迎えた日のことを思い出す。
まだ家具も少なかった新居で、ひときわ存在感を放っていた無塗装のチーク。
その中央に走る「ちぎり」の意匠に目を奪われた。
大きな一枚板をしっかりと繋ぎとめ、割れを防ぐためのもの。
でもそれは単なる補強ではなく、まるで家族を結びつける絆の象徴のように見えた。

無塗装のチークは、使うほどに色を変え、表情を豊かにしていった。
初めて迎えた頃は明るく軽やかだった木肌も、今は落ち着いた深みをたたえている。
毎日の食事でついたフォークのかすかな跡、ジュースの輪じみ、
子どもが描いたカラフルな線の影も、うっすらと残っている。
けれど、それらは傷ではなく、むしろ
「家族の時間のトレース」だった。

その夜、ケーキのろうそくが揺れ、木目と「ちぎり」のまわりに小さな影が踊った。
笑い声や歌声が天板の上に降り積もり、テーブルは静かにそれを受け止める。
ちぎりの部分に映る光と影は、まるで過去と未来を結ぶしるしのようで、
この場所がただの家具ではなく「我が家の歴史を刻む舞台」であることを教えてくれた。

“Trace”。
それは無塗装のチークが時間を刻み、
家族が残した無数の跡がひとつの物語になることを意味している。
どこで過ごしても、ここに戻れば思い出が迎えてくれる。